
江田島の空気をまとう、あたたかな器たち
瀬戸内海に浮かぶ穏やかな島・江田島。
ここで暮らし、制作を続ける陶芸家、若狹祐介と蓮尾寧子。
二人の作品は、瀬戸内の海や空のやさしい青や、日常に寄り添うような息づかいを映し出しています。
若狹祐介は、瀬戸内ブルーとも呼ばれる深く澄んだ青を生み出す器づくりで知られています。
幾重にも重ねられた釉薬の表情は、偶然の美しさを宿し、静かな時間をもたらします。
蓮尾寧子は、織物のような模様と、ふんわりとやわらかなフォルムを大切にしています。
器に触れると、どこかほっとするような温かさと、暮らしに寄り添う優しさが伝わってきます。
今回の展示では、約150点の器や花器が集まり、瀬戸内の凪のような穏やかな空気を西麻布のサロンに届けます。
大切な日常に小さな安らぎを添える器との出会いを、ぜひお楽しみください。

ETAJIMA
-江田島という舞台-
瀬戸内海に浮かぶ江田島(えたじま)は、広島市の南に位置し、四方を海に囲まれた島です。
地図を広げると、本州・広島のすぐ沖合にあり、呉市と橋でつながり、広島港(宇品港)からフェリーで約25〜30分と、まるで隣町に行くような距離にあります。
北には広島市街、東には呉市、西には宮島、南には四国の山並みを望むことができ、瀬戸内の中心に浮かぶように存在しています。
島全体が、どこか時間の流れをゆるやかに感じさせる、穏やかな空気に包まれています。
そこには、凪いだ海の静けさ、牡蠣や柑橘の恵み、そして赤煉瓦の旧海軍兵学校が物語る歴史が交錯しています。
自然の豊かさと重層的な記憶が共に息づく江田島は、若狹祐介さんと蓮尾寧子さんにとって、作品を育む「母なる大地」です。
瀬戸内ブルーの深みや、やわらかな器の息吹は、この島の光と風に支えられて生まれてきました。
青の深みと、かたちの息吹。
器に現れるその表情は、まさに江田島という島そのものの声。
自然と歴史が織りなす舞台から生まれた作品たちが、ここにあります。

若狹祐介「瀬戸内ブルー 江田島を映す藍の深み」

自然が作用して作り出された景色。
瀬戸内海に点在する島々、そしてその間を静かにたゆたう海。
修業の頃から絶えず目にしてきたその風景や自然の現象は、鮮やかな記憶として刻まれ、作品の中に少しずつ映し込まれてきました。
独立して最初に取り組んだ青のシリーズには「藍彩」と名を与え
そこには、自然が放つ空気感、生命の鼓動、移ろう彩りが重なり、
日本人の心の奥底に流れる「青」と響き合い、より豊かで深みのある青へと結実していきました。
石や木の灰、粘土といった素材そのものと、手との対話に重きを置き、
その瞬間ごとに現れる発色の妙が重なり合い、二度と同じものは生まれない、
江田島の海と空が映し込まれ、唯一無二の器として生まれていきます。
YUSUKE WAKASA
1978 広島県広島市生まれ
2004 陶芸家 今井政之氏に師事
2010 能美島にて独立
受賞歴
2019 有田国際陶磁展 朝日新聞社賞
2020 田部美術館「茶湯の造形展」優秀賞
2021 田部美術館「茶湯の造形展」秀美賞
入選歴
2012 田部美術館「茶の湯の造形展」(同,2016,18,19,22,23年)
2013 長三賞常滑陶芸展
2016 有田国際陶磁展 (同,17,18,19,23年)
陶美展(同,21年)
2017 現在形の陶芸萩大賞展IV(同,19年)
2018 現代茶陶展(同,19,20,21,22,23,24,25年)
2019 菊池ピエンナーレ 現代陶芸の<今>(同,21年)
第25回 日本陶芸展
2020 日本陶磁協会 現代陶芸奨励賞 中国·四国
国際陶磁展美濃
笠間陶芸大賞展
その他
日本各地・アメリカ(シアトル)・中国(北京・上海)・台湾(台中)にて個展開催


藍彩層-
青と紫、二種の釉薬を幾重にも重ね、深みある色彩と豊かな表情を宿した器。
重なりによって生まれる釉薬の厚みとテクスチャーが、静かに揺らめく水面のような陰影を描き出します。
プレートは真っ平でシンプルな形状。
アラカルトの一皿からメインディッシュまで、盛り付ける料理の個性を引き立て、
日常の食卓をアートのように彩ります。
藍彩-
青の釉薬の濃淡だけで表情を生み出す、静謐でありながら奥行きを感じさせる器。
小ぶりな茶壺とは異なり、日本茶にふさわしい落ち着きあるサイズ感に仕上げました。
合わせたのは茶杯ではなく、あえてぐい呑。
小さな器でありながら、手に取るたびに造形の妙を味わえるように設計されています。
掌にすっと収まる感触と、青の濃淡が織りなす景色――
その一瞬一瞬が、特別なお茶の時間を演出します。
藍香釉-
青の釉薬を、均一に、澄んだ佇まいで纏わせたすっきりとした器。
藍彩や藍彩層へと深化していく、その始まりの存在が「藍香釉」です。
あしつき小鉢
ひとつ高さを持たせることで、テーブルに立体的なリズムを生み出す小鉢。
盛り付ける料理を引き立てながら、視線の高さを変えることで食卓に新たな景色を添えます。

蓮尾寧子「土と手の対話」

粘土を
白化粧を
釉薬の色を重ね
その重なりから、複雑で淡い色が立ち上がります。
色と質感は、制作の過程で少しずつ積み重なり、その都度新しい景色を見せてくれ
布を重ねるように、土と釉が交わり、器に確かな存在感が宿ります。
重なりとは、素材同士が響き合い、反応して生まれるもの。
染織工芸で培った「重なりの感覚」は、いまも陶芸の中に生きています。
あいまいでいて、しっかりとそれぞれが存在して姿を現す。
そのときに立ち上がる、ちょっとした出来事。
それこそが、私にとって大きな楽しみであり、創作を続ける力となるのです。
そして、その根底にあるのが江田島の自然です。
瀬戸内海の凪の静けさ、海と空が溶け合う穏やかな気配。
それらは私の心の根幹にあり、五感を揺さぶり、作品へとそのまま映し出されています。
青の深みも、かたちのやわらぎも、この土地の風景が私の中で息を吹き返し、器へと姿を変えたものなのです。
SHIZUKO HASUO
1979 福岡生まれ
2002 広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科染織専攻
2003 京都府立陶工高等技術専門校 陶磁器成形科
2004 京都府立陶工高等技術専門校 陶磁器研究科
2006 京都にて独立
2011 広島に制作拠点を移す


「一滴の偶然が、永遠の表情を描く。」
釉薬を纏う前に施された鬼板の点描。
溶け出す釉と混ざり合い、時に残り、時に流れ、
触れるたびに異なる質感と彩りを宿す。
これから訪れる寒い季節には、手のひらに寄り添う温もりとともに、
ゆっくりと注がれる一杯を楽しんでいただきたい。
そして――洗い上げて伏せた瞬間に立ち現れる景色。
器をひっくり返したその裏側にも、美が宿り、
使い手だけが知る特別な時間をそっと彩ってくれるのです。
「釉薬が描く流麗な軌跡、重力がもたらす唯一無二の造形。」
ろくろの上で生まれた器は、歪みさえも意匠に変え、静かに輝きを放つ。
手にすれば日常を格上げし、ただ置かれているだけで空間を支配する。
その存在は、アートと機能の狭間に息づく、永遠の美。
「うてな皿」
名の通り、台のように料理を支える一枚。
大きめのサイズはメインディッシュを美しく引き立て、
落ち着いた色合いと控えめな模様は、デザートを盛っても決して邪魔をしません。
その表情をかたちづくる線は、一本一本、針で描き込まれたもの。
手仕事ならではの緻密さと温もりが、静かな存在感を宿しています。
Address
DRESSUNREVE 西麻布
港区西麻布4-11-14-666
電車>
東京メトロ日比谷線『広尾駅』4番出口より徒歩12分 広尾駅から721m
東京メトロ千代田線 『乃木坂駅』5番出口より徒歩18分 乃木坂駅から1000m
バス>
都営バス 渋谷駅(新橋駅行き)から都01 西麻布下車 徒歩5分
新宿駅(品川駅高輪口行き)品97 西麻布下車 徒歩3分
2025年11月20日(木)– 23日(日)
11:00-19:00


















